ネック:セドロ指 板:黒檀塗 装:ラッカー糸 巻:フステーロ弦 高:1弦 2.8mm /6弦 3.9mm[製作家情報]ヘロニモ・ペーニャ・フェルナンデス Jeronimo Pena Fernandez(1933~)スペイン、アンダルシア州のハエン県、マルモレホに生まれ、同地に工房を構える製作家。農家の子として育ちますが、9歳の時に大工の工房に弟子入りし(この工房ではしばしば地元の演奏家たちの楽器も修理していたようです)、ここで木工と装飾彫刻を学んでゆきます。幼少期からギターには興味を持っており、1950年代には独学でギターを作り始めています。それら初期の作の一つがフラメンコギタリストPepe Marchenaを通じてある数学教授兼コレクターのもとに渡り、その出来栄えに感動した彼は自身のコレクションから勉強のために銘器を貸し与えるとともに、フレッティングについての数学的な助言を与えるなどしています。1967年(1966年と記載している文献もあります)にはギター製作家として完全に独立して仕事をするようになりますが、ここに至るまでやはり全くの独学で製作技法を学んでいたものの、その木工技術の精密さ、音とデザインの独創性、すぐれた演奏性など楽器としてのトータルな完成度の高さによって評価と人気を得てゆくことになります。1993年には自身の製先技法を詳細に記した著書「El Arte de un Guitarrero Espanol」を上梓しており、書中では大工工房でみっちりと修行した彼らしく木材の適正な伐採時期(彼によると1月の、満月から一日経った最初に欠ける日に伐採するのが最適だという)から極めてユニークな内部構造の設計についてなどが語られています。彼のギターの特徴はまずその外観において、ヘッドと駒板の彫刻、厳選された木材の美しさ、やや大きめなサイズ感とその全体の比類の無い威容、エレガンスにまずはあると言えます。加えて内部構造ではアントニオ・デ・トーレスの伝統的なスペイン工法を土台としながら、より緻密で複雑な設計が為され、それは音響において彼がむしろアーティスティックな感性において追求し続けた音の丸み(redondez)を体現するものとして発想されているがゆえの、ある種数学的な有機性によって統一された極めて美しいものとなっています。またこうした独創性が決して発想の特異さのみに堕することなく、楽器として音楽的な豊かさに帰結しているところはやはり特筆すべきでしょう。フラメンコとクラシックの両方を製作し、フラメンコではマノロ・サンルーカルらの名手が使用しそのカテゴリーでの名声が高まりますが、杉材の荘重な佇まいが印象的なクラシックがむしろ現在は人気のアイテムと言えるでしょう。付言すれば、イギリスのヘヴィメタルアーティストOzzy Osbourneの初期バンドメンバーであった夭折の天才ギタリストRandy Rhodes(彼は優れたメタルギタリストであると同時にクラシックの正統な教育も受けていました)が1979年製のヘロニモ・ペーニャ製作のクラシックモデルを愛用していたことで、ハードロックファンにはいまも伝説的かつ垂涎のアイテムの一つとなっています。[楽器情報]ヘロニモ・ペーニャ・フェルナンデス製作、1978年製 Especial モデル。非常に状態の良い美品Usedが入荷致しました。このブランドの符牒とも言える尖塔形のヘッドシェイプではなく、トーレスを思わせるスタイルで彫刻のデザインも異なります。またラベルも羊皮紙の巻物を紐解いたようなレトロなデザインでこれも彼の通常モデルとは異なり、Especialモデルのみの仕様のようです。ヘッドと駒板などの、印象的ですがしかしぎりぎりのところで抑制されたデザインの彫刻や意匠、彼の面目躍如たる厳選された材(おそらくSequoia杉を使用した表面板の赤みの深さ、横裏板は野趣溢れる中南米ローズウッドの組み合わせ)の美しさ、たっぷりとした容量のあるボディながらしかしスマートさを感じさせるきりっとした外観がやはり素晴らしい。指板エンド部分もささやかな木彫が施され、サウンドホールラベルを慎ましく引き立てていることも特筆すべき点でしょう。実に特徴的な内部構造を持ったギターです。基本となるのはトーレス的なハーモニックバーと扇状力木の組み合わせ。サウンドホール上下に一本ずつのかなり強固なハーモニックバーを設置していますが、このうち下側のほうのバーはサウンドホールの真下部分を頂点として大きくネック方向に湾曲して設置されています。またネック脚を貫通するようにして1本、そしてネック脚と上側ハーモニックバーとの間にも1本の短くやや繊細な造りのバーを設置。下側ハーモニックバーの低音側のほぼくびれに近い部分からは同じように強固な造りのバーが横板に向かって斜めに下がってゆくようにしかもやはり湾曲して設置されています。サウンドホール周りにはまず一枚の補強板が貼られた上に高音側と低音側それぞれに一枚ずつの幅の狭い補強板が貼られているという二層構造。そしてボディ下部は左右対称5本の扇状力木と3本の等間隔に設置されたバー(これらはハーモニックバーよりも細く低い形状)とが交差しており、そのグリッド状になった枡目の一つ一つに対角線を結ぶようにしてX状の力木が設置されています。この小さなX状力木はサウンドホールの高音側と低音側にも(補強板縁から横板との範囲を覆うように)設置されています。これらXの延長線をつなげてゆくとちょうど表面板下部全体がモダンギターの特徴的な構造の一つラティスブレーシングと同じような格子状配置になるのが興味深い(ちなみにオーストラリアの製作家Greg Smallman が格子状力木を実用化したのも1970年代後半であり、名手ジョン・ウィリアムスが使用したのが1981年製で世界中に認知されるのは1980年代以降であるから、ヘロニモ・ペーニャとスモールマンの直接の影響関係は考えにくいのですが、両者の同時代的な進歩的精神の偶然の一致はギターの製作史を俯瞰してみると非常に象徴的なものを感じさせもします)。また裏板には両横板を繋ぐ計5本のバーと、センターの接ぎ部分にやはり二層構造で補強プレートが設置されている他、高音側と低音側のボトムからネック付け根までを繋ぐ各一本の補強板(裏板と同じ素材で作られている)がほんのわずかに湾曲して設置されてています。レゾナンスはF#とGの間に設定されています。表面板のはスタンダードなサイズですが、ボディ厚みがアッパー部で10.6cm、ボトム部で11cmあるその容量の大きさと、木材の性質を十全に活かした響き。ふっくらとした奥行きを持ち、レゾナンスが低めながら低音に偏ることがなくむしろ高音域に渡るまで全体に整った、そして非常に洗練された統一感があり、構造的に格子状力木と近似しているせいか、弾性感をともなった、表面板から直に立ち上がってくるような発音が心地よい。音量はしかしモダンギターのような過度に増幅されたような感覚はなく、あくまでも自然に豊かに響きます。演奏において、特に高音の輪郭のはっきりした艶やかな音像が、十分なサスティーンと奥行きを持ちながらまるで形の整った玉のように連なってゆくのがなんとも魅力的で、それを低音の(低音自体も非常に引き締まった音像なのですが)たっぷりした響きが支えるような全体の音響はやはりスペインならではと言えるでしょう。(コンディションについて)表面板は駒板下1弦側に弦とび跡がありますが、その他は指板脇に数か所の軽微なスクラッチあとと衣服等による微細な摩擦あとのみで、横裏板もほぼ無傷に近く、年式を考慮すると全体に非常な美品と言える一本。割れ等の大きな修理や改造等の履歴はありません。ネックもほぼ真直ぐを維持しており、フレットも適正値、糸巻きはスペインの老舗ブランドFusteroを装着し、こちらも動作状況に問題ありません。ネックは普通の厚みのDシェイプ。ネックの差し込み角、ブリッジの設定などが絶妙で、670㎜の長いスケールを全く感じさせてない左手の演奏性。弦高値は2.8/3.9mm(1弦/6弦 12フレット)で、サドル余剰は0.5~1.0mm。弦の張りはスケールの割には中庸からむしろ弱めで、この点でも左手のストレスが軽減されています。重量は1.9㎏。
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ネック:セドロ
指 板:黒檀
塗 装:ラッカー
糸 巻:フステーロ
弦 高:1弦 2.8mm /6弦 3.9mm
[製作家情報]
ヘロニモ・ペーニャ・フェルナンデス Jeronimo Pena Fernandez(1933~)スペイン、アンダルシア州のハエン県、マルモレホに生まれ、同地に工房を構える製作家。農家の子として育ちますが、9歳の時に大工の工房に弟子入りし(この工房ではしばしば地元の演奏家たちの楽器も修理していたようです)、ここで木工と装飾彫刻を学んでゆきます。幼少期からギターには興味を持っており、1950年代には独学でギターを作り始めています。それら初期の作の一つがフラメンコギタリストPepe Marchenaを通じてある数学教授兼コレクターのもとに渡り、その出来栄えに感動した彼は自身のコレクションから勉強のために銘器を貸し与えるとともに、フレッティングについての数学的な助言を与えるなどしています。1967年(1966年と記載している文献もあります)にはギター製作家として完全に独立して仕事をするようになりますが、ここに至るまでやはり全くの独学で製作技法を学んでいたものの、その木工技術の精密さ、音とデザインの独創性、すぐれた演奏性など楽器としてのトータルな完成度の高さによって評価と人気を得てゆくことになります。
1993年には自身の製先技法を詳細に記した著書「El Arte de un Guitarrero Espanol」を上梓しており、書中では大工工房でみっちりと修行した彼らしく木材の適正な伐採時期(彼によると1月の、満月から一日経った最初に欠ける日に伐採するのが最適だという)から極めてユニークな内部構造の設計についてなどが語られています。
彼のギターの特徴はまずその外観において、ヘッドと駒板の彫刻、厳選された木材の美しさ、やや大きめなサイズ感とその全体の比類の無い威容、エレガンスにまずはあると言えます。加えて内部構造ではアントニオ・デ・トーレスの伝統的なスペイン工法を土台としながら、より緻密で複雑な設計が為され、それは音響において彼がむしろアーティスティックな感性において追求し続けた音の丸み(redondez)を体現するものとして発想されているがゆえの、ある種数学的な有機性によって統一された極めて美しいものとなっています。またこうした独創性が決して発想の特異さのみに堕することなく、楽器として音楽的な豊かさに帰結しているところはやはり特筆すべきでしょう。
フラメンコとクラシックの両方を製作し、フラメンコではマノロ・サンルーカルらの名手が使用しそのカテゴリーでの名声が高まりますが、杉材の荘重な佇まいが印象的なクラシックがむしろ現在は人気のアイテムと言えるでしょう。付言すれば、イギリスのヘヴィメタルアーティストOzzy Osbourneの初期バンドメンバーであった夭折の天才ギタリストRandy Rhodes(彼は優れたメタルギタリストであると同時にクラシックの正統な教育も受けていました)が1979年製のヘロニモ・ペーニャ製作のクラシックモデルを愛用していたことで、ハードロックファンにはいまも伝説的かつ垂涎のアイテムの一つとなっています。
[楽器情報]
ヘロニモ・ペーニャ・フェルナンデス製作、1978年製 Especial モデル。非常に状態の良い美品Usedが入荷致しました。このブランドの符牒とも言える尖塔形のヘッドシェイプではなく、トーレスを思わせるスタイルで彫刻のデザインも異なります。またラベルも羊皮紙の巻物を紐解いたようなレトロなデザインでこれも彼の通常モデルとは異なり、Especialモデルのみの仕様のようです。ヘッドと駒板などの、印象的ですがしかしぎりぎりのところで抑制されたデザインの彫刻や意匠、彼の面目躍如たる厳選された材(おそらくSequoia杉を使用した表面板の赤みの深さ、横裏板は野趣溢れる中南米ローズウッドの組み合わせ)の美しさ、たっぷりとした容量のあるボディながらしかしスマートさを感じさせるきりっとした外観がやはり素晴らしい。指板エンド部分もささやかな木彫が施され、サウンドホールラベルを慎ましく引き立てていることも特筆すべき点でしょう。
実に特徴的な内部構造を持ったギターです。基本となるのはトーレス的なハーモニックバーと扇状力木の組み合わせ。サウンドホール上下に一本ずつのかなり強固なハーモニックバーを設置していますが、このうち下側のほうのバーはサウンドホールの真下部分を頂点として大きくネック方向に湾曲して設置されています。またネック脚を貫通するようにして1本、そしてネック脚と上側ハーモニックバーとの間にも1本の短くやや繊細な造りのバーを設置。下側ハーモニックバーの低音側のほぼくびれに近い部分からは同じように強固な造りのバーが横板に向かって斜めに下がってゆくようにしかもやはり湾曲して設置されています。サウンドホール周りにはまず一枚の補強板が貼られた上に高音側と低音側それぞれに一枚ずつの幅の狭い補強板が貼られているという二層構造。そしてボディ下部は左右対称5本の扇状力木と3本の等間隔に設置されたバー(これらはハーモニックバーよりも細く低い形状)とが交差しており、そのグリッド状になった枡目の一つ一つに対角線を結ぶようにしてX状の力木が設置されています。この小さなX状力木はサウンドホールの高音側と低音側にも(補強板縁から横板との範囲を覆うように)設置されています。これらXの延長線をつなげてゆくとちょうど表面板下部全体がモダンギターの特徴的な構造の一つラティスブレーシングと同じような格子状配置になるのが興味深い(ちなみにオーストラリアの製作家Greg Smallman が格子状力木を実用化したのも1970年代後半であり、名手ジョン・ウィリアムスが使用したのが1981年製で世界中に認知されるのは1980年代以降であるから、ヘロニモ・ペーニャとスモールマンの直接の影響関係は考えにくいのですが、両者の同時代的な進歩的精神の偶然の一致はギターの製作史を俯瞰してみると非常に象徴的なものを感じさせもします)。また裏板には両横板を繋ぐ計5本のバーと、センターの接ぎ部分にやはり二層構造で補強プレートが設置されている他、高音側と低音側のボトムからネック付け根までを繋ぐ各一本の補強板(裏板と同じ素材で作られている)がほんのわずかに湾曲して設置されてています。レゾナンスはF#とGの間に設定されています。
表面板のはスタンダードなサイズですが、ボディ厚みがアッパー部で10.6cm、ボトム部で11cmあるその容量の大きさと、木材の性質を十全に活かした響き。ふっくらとした奥行きを持ち、レゾナンスが低めながら低音に偏ることがなくむしろ高音域に渡るまで全体に整った、そして非常に洗練された統一感があり、構造的に格子状力木と近似しているせいか、弾性感をともなった、表面板から直に立ち上がってくるような発音が心地よい。音量はしかしモダンギターのような過度に増幅されたような感覚はなく、あくまでも自然に豊かに響きます。演奏において、特に高音の輪郭のはっきりした艶やかな音像が、十分なサスティーンと奥行きを持ちながらまるで形の整った玉のように連なってゆくのがなんとも魅力的で、それを低音の(低音自体も非常に引き締まった音像なのですが)たっぷりした響きが支えるような全体の音響はやはりスペインならではと言えるでしょう。
(コンディションについて)
表面板は駒板下1弦側に弦とび跡がありますが、その他は指板脇に数か所の軽微なスクラッチあとと衣服等による微細な摩擦あとのみで、横裏板もほぼ無傷に近く、年式を考慮すると全体に非常な美品と言える一本。割れ等の大きな修理や改造等の履歴はありません。ネックもほぼ真直ぐを維持しており、フレットも適正値、糸巻きはスペインの老舗ブランドFusteroを装着し、こちらも動作状況に問題ありません。ネックは普通の厚みのDシェイプ。ネックの差し込み角、ブリッジの設定などが絶妙で、670㎜の長いスケールを全く感じさせてない左手の演奏性。弦高値は2.8/3.9mm(1弦/6弦 12フレット)で、サドル余剰は0.5~1.0mm。弦の張りはスケールの割には中庸からむしろ弱めで、この点でも左手のストレスが軽減されています。重量は1.9㎏。