自身のラベルによるものはクラシック、フラメンコそれぞれ一貫してワンモデルのみを製作。それ以外には工房品(「Para Casa Arcangel Fernandez」ラベル)としてバルベロ・イーホやマヌエル・カセレスらが製作を担当して出荷もしています。この二人はそれぞれ自身のオリジナルラベルでの製作も行っていますが、アルカンヘル工房品として出荷されたものも完全手工品として(ラベルには製作者の名前が明記されています)極めて高いクオリティのもので評価も高く、現在中古市場でも人気のアイテムとなっています。
指 板:黒檀
塗 装:セラック
糸 巻:フステーロ
弦 高:1弦 3.2mm /6弦 4.1mm
[製作家情報]
1931年スペイン、マドリッド生まれ。
マヌエル・ラミレス、サントス・エルナンデスから続くマドリッド派の哲学を真に継承し、頑ななまでにそれを護り通したほとんど唯一の職人であり、その芸術性においても極点を示した20世紀後半のスペインを代表する製作家です。
少年時代は映画俳優志望で実際に数本の映画にも出演、13歳になると家具職人として働き始め、同時にフラメンコギターの演奏も始めます。相当な腕前だった彼は兵役を終えた頃にはプロギタリストとしての道を模索しますが、1954年、当時サントス・エルナンデス(1874~1943)の後継者とされていた名工マルセロ・バルベロ1世(1904~1956)の知己を得てその工房に足繁く通うようになると、この名工にギター製作をすすめられ弟子となります。アルカンヘルは師バルベロの作るギターに強い興味を抱くようになり、持ち前の探求心で加速度的に製作の腕前を上げ、瞬く間に職人として成長してゆきます。しかしバルベロは1956年に52歳の若さで他界。わずか2年間に学んだことを糧に、唯一の弟子であったアルカンヘルはバルベロの残された注文分のギターをすべて製作した後、1957年に師の工房の近くヘスス・イ・マリア通りに自身の工房を設立。この開始時からアルカンヘルの職人としての充実度はすさまじいほどで、造作と音響の両方において若さゆえの甘さなどみじんもなく、透徹した精神が隅々まで行き渡った名品を作り出しています。そしてそれはその後50年に渡り一切弛緩することなく続いてゆくことになります。後年には師の息子マルセロ・バルベロ・イーホ(1943~2005)がスタッフに加わり、共に同じ工房で製作を続けていました。
自身のラベルによるものはクラシック、フラメンコそれぞれ一貫してワンモデルのみを製作。それ以外には工房品(「Para Casa Arcangel Fernandez」ラベル)としてバルベロ・イーホやマヌエル・カセレスらが製作を担当して出荷もしています。この二人はそれぞれ自身のオリジナルラベルでの製作も行っていますが、アルカンヘル工房品として出荷されたものも完全手工品として(ラベルには製作者の名前が明記されています)極めて高いクオリティのもので評価も高く、現在中古市場でも人気のアイテムとなっています。
アルカンヘルの造作、材の選定、そしてなによりも音色に対する一切の妥協を排した製作姿勢は彼の人柄もあいまって孤高の趣を呈し、彼の楽器はそのあまりの完成度の高さゆえに、演奏者に非常な技術の洗練を要求するものとなっております。それゆえに多くのギタリストを刺激し続けている稀有な楽器ですが、2011年に製作を引退。現在ではますます稀少となっている名ブランドの一つです。
[楽器情報]
アルカンヘル・フェルナンデス 2003年製クラシックモデル Usedの入荷です。彼は師であるバルベロ1世、さらにはさかのぼってサントス・エルナンデスから連なるマドリッドの正統な系譜に属するほとんど唯一と言ってよい製作家ですが、サントスが実験精神と多様性を展開しながら模索し、バルベロ1世がその音響を抽象性の高みにまで完成させた後、アルカンヘルはさらにそれを凝縮しギターという楽器の極点を目指すかのように妥協のない製作姿勢を貫きます。バルベロ1世においてはまだ数種のパターンが見られる設計も、アルカンヘルにおいてほぼ一つの設計で統一されます(フラメンコもほぼ同一の設計ですがクラシックとは力木の本数が1本異なるのみ)。
表面板力木配置はサウンドホール上下(ネック側とブリッジ側)に一本ずつのハーモニックバー、扇状力木は6本が、センターに配置された1本を境として低音側に2本、高音側に3本配置され、ボトム部でそれらの先端を受け止めるようにハの字型のクロージングバーを設置、駒板位置にはほぼ横幅いっぱいに補強プレートが貼られている、アルカンヘルのクラッシックモデルの定式の配置となっています。特徴的なのはこれらのバーや力木はそれぞれ通常のギターよりも太く高く、強固に作られており、「扇状」とはいってもほとんどお互いに平行に近い角度で、一番高音側の1本以外は駒板の幅に収まるように中央に寄せて設置されています。レゾナンスはG#の少し下に設定されています。
十分な粘りを持った低音のストイックでしかし雄弁な身振りと表情、高音の凛として雑味のまったくない音像、そして全体にハカランダ材ゆえの透明感が加わり、これ以上ないほどの気品をまとった音響はいかにもクラシックに相応しく素晴らしい。堂々たる音圧があり、それはなにか大きなものが自然にそこに存在してるかのような独特なもので、いわゆる大音量のギターと言われるものがしばしば音が「増幅」されているような感触であるのとは異なり、あくまで楽器の自然な性質としての悠揚たる音圧がいかにもアルカンヘルらしい。
表面板のサウンドホール周りに細かな弾き傷、また2か所ほど小さく浅い打痕を部分補修した跡がありますがいずれも軽微なもので外観を損ねるほどではありません。横裏板は演奏時に胸の当たる部分に塗装ムラなどがあるほかは全体にきれいな状態です。割れなどの大きな修理履歴もありません。ネック裏は1~5フレット範囲の高音側に爪による塗装の摩耗がやや目立つほか、ヘッド裏の高音側にもおそらく糸巻つまみ操作の際に爪が接触したことによる傷があります。ネックは真っ直ぐを維持しており、フレットは1~5フレットでわずかに摩耗見られますが演奏性への影響はありません。弦高値は3.2/4.1mm(1弦/6弦 12フレット)でサドルには1.5~2.5mmの余剰があります。ネックの角度設定が良く、ネックシェイプも薄めのフラットなDシェイプで弦の張りは中庸なので現状でも左手はストレスを感じずに弾くことができますが、お好みに応じて弦高値を下げることは可能です。重量は1.60㎏。
表面板のちょうど1弦12~19フレットの真下部分にはスリットが入れてありますが(指板の下に隠れた部分なので表からは見えません)、これは指板と表面板が接するエリアの木の伸縮による割れ防止のために製作時に意図的に処理されたもので、出荷後に生じたものではありません。